今日は、賃貸不動産経営管理士試験 令和2年度 第2問について解説します。
管理業者の社会的責務と役割に関する次の記述のうち、最も適切なものはどれか。
① 人口減少・成熟型社会を迎え、良質のものを長く使うストック重視の循環型社会へ移行することが喫緊の課題となり、適切な管理を通じて不動産の価値を維持・保全する役割を担う管理業者の社会的責務と役割が高まっている。
② 貸主の資産の適切な運用という観点から、貸主の有するあらゆる資産の組合せの中で、いかに収益を上げるかという視点で賃貸管理のあり方を構成していくことは、管理業者としては越権であり控えるべき姿勢である。
③ バブル崩壊、不動産不況、グローバリゼーションの進展など、賃貸不動産を取り巻く環境の変化に対応した結果、賃貸不動産の活用の現場では、もっぱら普通建物賃貸借契約に重点をおいて、その契約期間をいかに長くするかが、最も重要となっている。
④ 管理業者に求められる社会的役割の一つは、貸主や借主との信頼関係に最大限の配慮をしたコンプライアンスの遵守であるが、管理業者が賃貸借契約の当事者になる場合、契約の相手方に、将来の家賃変動等、管理業者にとって不利益な事項は説明する必要はない。
解説
管理業者の社会的責務と役割に関する問題です。
それではさっそく選択肢をみていきましょう。
選択肢 ①
人口減少・成熟型社会を迎え、良質のものを長く使うストック重視の循環型社会へ移行することが喫緊の課題となり、適切な管理を通じて不動産の価値を維持・保全する役割を担う管理業者の社会的責務と役割が高まっている。
〇適切です。
人口減少・成熟型社会を迎え、良質のものを長く使うストック重視の循環型社会へ移行することが喫緊の課題となっています。
こうした背景のもと、既存の賃貸住宅を適切に管理し、良好な状態で長く活用していくことは、地域の環境づくりにおいても重要な役割を果たすものとされており、適切な維持管理を行う管理業者の役割はますます重要になっています。
選択肢の説明通りですので、この選択肢は適切です。
選択肢 ②
貸主の資産の適切な運用という観点から、貸主の有するあらゆる資産の組合せの中で、いかに収益を上げるかという視点で賃貸管理のあり方を構成していくことは、管理業者としては越権であり控えるべき姿勢である。
×不適切です。
管理業者は、貸主が保有する金融資産や不動産資産などの組合せ(ポートフォリオ)のなかで、賃貸住宅経営・管理の在り方を提案し、収益向上のための賃貸住宅管理を構成することが求められます。
管理業者は単なる管理代行ではなく、貸主の賃貸住宅経営を総合的に代行する資産運営の専門家としての責務を負っています。
つまり、貸主の資産の適切な運用という観点から、貸主の有するあらゆる資産の組合せの中で、いかに収益を上げるかという視点で賃貸管理のあり方を構成していくことは、管理業者に求められている役割のひとつといえます。よってこの選択肢は不適切です。
選択肢 ③
バブル崩壊、不動産不況、グローバリゼーションの進展など、賃貸不動産を取り巻く環境の変化に対応した結果、賃貸不動産の活用の現場では、もっぱら普通建物賃貸借契約に重点をおいて、その契約期間をいかに長くするかが、最も重要となっている。
×不適切です。
昨今の借り手市場となっている状況のもとでは、優良な入居者に長く住んでもらうことの重要性が高まっているのは事実です。
しかしながら、賃貸不動産の活用において「普通建物賃貸借契約に重点を置き、その契約期間をいかに長くするか」が最も重要とされているわけではありません。
入居者ニーズの多様化や賃貸経営の柔軟性の確保のためには、定期建物賃貸借契約の活用なども視野に入れた多様な賃貸借契約形態の中から適切な契約を選択する必要があります。
つまり、バブル崩壊、不動産不況、グローバリゼーションの進展など、賃貸不動産を取り巻く環境の変化に対応した結果、賃貸不動産の活用の現場では、優良な入居者に長く住んでもらうためにも、多様な賃貸借契約形態の中から適切な契約を選択することが求められます。よってこの選択肢は不適切です。
選択肢 ④
管理業者に求められる社会的役割の一つは、貸主や借主との信頼関係に最大限の配慮をしたコンプライアンスの遵守であるが、管理業者が賃貸借契約の当事者になる場合、契約の相手方に、将来の家賃変動等、管理業者にとって不利益な事項は説明する必要はない。
×不適切です。
賃貸住宅管理業者には、貸主や借主との信頼関係を構築・維持するために、法令や契約に基づいた適正な管理を行うことが求められています。
そのためには、コンプライアンスを重視し、誠実・公正な対応を心がける必要があります。
契約違反となる行為はもちろん、契約違反に該当しない場合であっても、契約の趣旨に照らして不適切とされる行為は慎むべきです。
つまり、管理業者に求められる社会的役割の一つは、貸主や借主との信頼関係に最大限の配慮をしたコンプライアンスの遵守であるが、管理業者が賃貸借契約の当事者になる場合であっても、契約の相手方に、将来の家賃変動等、管理業者にとって不利益な事項も含めて説明する義務があります。よってこの選択肢は不適切です。
以上から、正解は選択肢①となります。
