今日は、平成28年度 第15問について解説します。
賃貸不動産の所有権移転と賃貸借契約上の地位の移転に関する次の記述のうち、最も適切なものはどれか。
① 貸主が、自己の所有建物を借主に賃貸して引き渡した後、第三者に当該建物を売却し、所有権移転登記を完了した場合には、特段の事情がない限り、貸主の地位もこれに伴って第三者に移転し、敷金に関する権利義務も第三者に承継される。
② 建物について抵当権が設定され、その登記がされた後に、賃貸借契約が締結された場合、当該抵当権が実行され、買受人に当該建物の所有権が移転したときは、貸主の地位は当然に買受人に移転する。
③ 建物について抵当権設定登記がされる前に賃貸借契約が締結され、借主が当該建物の引渡しを受けた場合、その後に設定された抵当権が実行され、買受人に当該建物の所有権が移転したときは、借主は建物を明け渡さなければならないが、買受けから6ヵ月間は明渡しを猶予される。
④ 担保権の登記がされていない建物について賃貸借契約が締結され、借主が当該建物の引渡しを受けた後に、当該建物が貸主の債権者によって差し押えられ、競売された場合には、借主は建物を直ちに明け渡さなければならない。
解説
対抗要件と賃借権に関する問題です。
それではさっそく選択肢を確認しましょう。
選択肢 ①
貸主が、自己の所有建物を借主に賃貸して引き渡した後、第三者に当該建物を売却し、所有権移転登記を完了した場合には、特段の事情がない限り、貸主の地位もこれに伴って第三者に移転し、敷金に関する権利義務も第三者に承継される。
〇適切です。
借主が建物の引渡しを受けている場合、その賃借権は第三者に対しても対抗できるため、借主は賃借権の「対抗要件」を満たしていることになります。
借主が対抗要件を備えている状態で、建物が第三者に譲渡された場合には、旧貸主の貸主としての地位は、新たな所有者に当然に移転します。
この場合、賃貸借契約に基づく賃料請求権や敷金返還義務などの権利義務も、新たな所有者に承継されます。
選択肢の説明通りですので、この選択肢は適切です。
選択肢 ②
建物について抵当権が設定され、その登記がされた後に、賃貸借契約が締結された場合、当該抵当権が実行され、買受人に当該建物の所有権が移転したときは、貸主の地位は当然に買受人に移転する。
×不適切です
借主に建物が引き渡される前に抵当権が設定され、その抵当権に基づき競売が実行された場合、借主は対抗要件を備えていないため、新たな所有者に賃借権を主張することができません。
この場合は、貸主の地位が当然に買受人に移転することはありません。
つまり、建物について抵当権が設定され、その登記がされた後に、賃貸借契約が締結された場合、当該抵当権が実行され、買受人に当該建物の所有権が移転したときは、貸主の地位は当然に買受人に移転するわけではありません。よってこの選択肢は不適切です。
選択肢 ③
建物について抵当権設定登記がされる前に賃貸借契約が締結され、借主が当該建物の引渡しを受けた場合、その後に設定された抵当権が実行され、買受人に当該建物の所有権が移転したときは、借主は建物を明け渡さなければならないが、買受けから6ヵ月間は明渡しを猶予される。
×不適切です
賃貸借契約が抵当権設定登記より先であり、引渡しを受けている場合、借主は賃借権を対抗できます。
つまり、建物について抵当権設定登記がされる前に賃貸借契約が締結され、借主が当該建物の引渡しを受けた場合、その後に設定された抵当権が実行され、買受人に当該建物の所有権が移転したときは、借主は賃借権を買受人に対抗することができるため、建物を明け渡す必要はありません。よってこの選択肢は不適切です。
選択肢 ④
担保権の登記がされていない建物について賃貸借契約が締結され、借主が当該建物の引渡しを受けた後に、当該建物が貸主の債権者によって差し押えられ、競売された場合には、借主は建物を直ちに明け渡さなければならない。
×不適切です
賃貸借契約が担保権の登記より先であり、引渡しを受けている場合、借主は賃借権を対抗できます。
担保権の登記がされていない建物について賃貸借契約が締結され、借主が当該建物の引渡しを受けた後に、当該建物が貸主の債権者によって差し押えられ、競売された場合には、借主は賃借権を新所有者に対抗することができるため、建物を明け渡す必要はありません。よってこの選択肢は不適切です。
以上から、正解は選択肢①となります。