今日は、平成28年度 第19問について解説します。
借主の義務と責任に関する次の記述のうち、最も不適切なものはどれか。
① 賃貸不動産につき修繕を要するときは、借主は、遅滞なくその旨を貸主に通知しなければならない。
② 賃貸不動産が転借人の過失により損傷した場合、借主は、転貸について貸主の承諾を得ていたとしても、貸主に対し、債務不履行に基づく損害賠償責任を負う。
③ 借主は、失火により賃貸不動産を損傷したとしても、失火につき重過失がない限り、貸主に対し、債務不履行に基づく損害賠償責任を負わない。
④ ペット飼育の禁止が賃貸借契約で定められていない場合でも、通常許容される範囲を超えたペットの飼育があった場合には、賃貸借契約の解除が認められる。
解説
借主の義務に関する問題です。
それではさっそく選択肢を確認しましょう。
選択肢 ①
賃貸不動産につき修繕を要するときは、借主は、遅滞なくその旨を貸主に通知しなければならない。
〇適切です。
借主は、目的物について修繕が必要な状態を発見したときや、第三者が目的物に関して所有権などの権利を主張してきたときは、遅滞なく貸主に通知する義務があります。
選択肢の説明通りですので、この選択肢は適切です。
選択肢 ②
賃貸不動産が転借人の過失により損傷した場合、借主は、転貸について貸主の承諾を得ていたとしても、貸主に対し、債務不履行に基づく損害賠償責任を負う。
〇適切です。
転貸について貸主(原賃貸人)の承諾があった場合でも、転借人は転貸人(借主)の履行補助者とみなされるため、転借人の故意や過失によって物件を毀損した場合、借主(転貸人)が貸主(原賃貸人)に対して責任を負うことになります。
選択肢の説明通りですので、この選択肢は適切です。
選択肢 ③
借主は、失火により賃貸不動産を損傷したとしても、失火につき重過失がない限り、貸主に対し、債務不履行に基づく損害賠償責任を負わない。
×不適切です
賃貸住宅が借主の失火により焼失し、返還が不可能になった場合、債務不履行責任が生じます。
この場合、失火者である借主は、貸主に対して損害賠償責任を負うことになります。
つまり、借主は、失火により賃貸不動産を損傷した場合、貸主に対し、債務不履行に基づく損害賠償責任を負います。よってこの選択肢は不適切です。
なお、失火につき重過失がない限り、損害賠償責任を負わないというのは、
不法行為(たとえば近隣住宅への類焼)における「失火責任法」によるものであり、賃貸借契約に基づく債務不履行責任とは別の話です。混同しないように注意が必要です。
選択肢 ④
ペット飼育の禁止が賃貸借契約で定められていない場合でも、通常許容される範囲を超えたペットの飼育があった場合には、賃貸借契約の解除が認められる。
〇適切です。
賃貸借契約にペット飼育禁止の明示がない場合でも、社会通念を逸脱するようなペットの飼育(多頭飼い、騒音・悪臭、近隣住民への迷惑など)は、信頼関係を破壊する行為と評価され、解除が認められる可能性があります。
選択肢の説明通りですので、この選択肢は適切です。
ただし、解除が認められるかどうかは、あくまで「信頼関係が破壊されたかどうか」によって判断されるため、単に通常の範囲を超えたペットの飼育があったからといって、直ちに解除が認められるわけではない点には注意が必要です。
以上から、正解は選択肢③となります。
