今日は、企業経営理論 R6 第8問について解説します。
衰退業界とは、景気変動や短期的要因によるものではなく、長期にわたって販売数量そのものが下降を続けている業界のことである。M. ポーターの衰退業界の競争戦略に関する記述として、最も適切なものはどれか。
ア 買い手が価格に敏感でなく、かつ買い手の交渉力が小さいほど、業界の売上が縮小しても、残存者は利益を得やすい。
イ 企業が業界内で強力なポジションを占めているほど、企業による業界の衰退予想はより悲観的になりやすい。
ウ 急激かつ無軌道な衰退プロセスが予想されるほど、その業界の競争の激しさは減少する。
エ 業界衰退期の戦略の １ つである刈り取り戦略とは、高い利益率を生み出す特定のセグメントを見い出し、その防衛を目指す戦略である。
オ 業界衰退の速度は、技術進歩や人口変化などの環境要因によって決まるもので、個々の企業の撤退戦略とは関係ない。
解説
競争戦略のうち、5F分析に関する問題です。
まとめシートでは、以下の通り解説しています。
ここでいう衰退業界とは、景気変動などの一時的な要因ではなく、長期的・構造的に需要や販売数量が減少していく業界を指します。
このような業界では、企業は市場縮小に対応する撤退戦略や差別化戦略、コストリーダーシップ戦略などを選択し、利益を確保していく必要があります。
ポーターのファイブフォース（5F）分析は、以下の5つの要因から業界の競争状況を分析する手法です：
既存企業間の競争（特に価格競争）
新規参入者の脅威
代替品の脅威
売り手の交渉力
買い手の交渉力
衰退業界においては、「撤退障壁の高さ」「買い手・売り手の交渉力」「価格競争の有無」などが、残存企業の収益性を左右するポイントになります。
なお解く際のポイントとして、本問は選択肢に独特の言い回しがありやや馴染みにくく感じますが、上の図を頭でイメージする、又は解く際に簡単に図を書いてみても良さそうです。
それでは選択肢をみていきましょう。
選択肢ア：買い手が価格に敏感でなく、かつ買い手の交渉力が小さいほど、業界の売上が縮小しても、残存者は利益を得やすい。
→ 正しい
これは5F分析の「買い手の交渉力」に関する考え方と一致します。
買い手の価格感度が低く、交渉力も弱ければ、企業側が価格決定権を持てるため、市場規模が縮小しても、残存企業は高利益率を維持しやすくなります。
したがって、この選択肢は最も適切です。
選択肢イ：企業が業界内で強力なポジションを占めているほど、企業による業界の衰退予想はより悲観的になりやすい。
→ 誤り
むしろ逆です。強いポジションを持っている企業ほど、市場縮小後の競争優位を維持できると考えるため、悲観的になりにくいのが通常です。
悲観的になるのはむしろ、ポジションが弱く、残存競争に勝ち残る見込みが薄い企業です。
選択肢ウ：急激かつ無軌道な衰退プロセスが予想されるほど、その業界の競争の激しさは減少する。
→ 誤り
衰退が急激かつ無秩序に進むと、企業が一斉にシェア争いに走るため、撤退が進まず、価格競争や過剰供給が続き、むしろ競争は激化しやすいです。
計画的な退出や需要予測が困難な環境では、競争の激しさが増すのが通常です。
選択肢エ：業界衰退期の戦略の 1 つである刈り取り戦略とは、高い利益率を生み出す特定のセグメントを見い出し、その防衛を目指す戦略である。
→ 誤り
刈り取り戦略（ハーベスティング戦略）は、「追加投資を最小限に抑えて利益を最大化し、事業から資金を回収する戦略」のことです。
特定セグメントを防衛することを目的とするのはニッチ戦略や集中戦略に近く、刈り取り戦略の説明とは異なります。
選択肢オ：業界衰退の速度は、技術進歩や人口変化などの環境要因によって決まるもので、個々の企業の撤退戦略とは関係ない。
→ 誤り
衰退の速度には、環境要因だけでなく、企業の撤退戦略（市場からの退出のタイミング）も大きく影響します。
企業の一斉撤退や集中戦略の導入によって、市場の競争構造や縮小速度が変化することがあるため、「撤退戦略とは関係ない」という記述は不適切です。
✅ まとめ
選択肢ア（正）：買い手の価格感度・交渉力が低いほど、残存企業は利益を得やすい。
選択肢イ（誤）：強いポジションの企業ほど悲観的にはなりにくい。
選択肢ウ（誤）：無秩序な衰退では競争はむしろ激化する。
選択肢エ（誤）：刈り取り戦略は利益回収目的であり、防衛戦略ではない。
選択肢オ（誤）：業界衰退の速度には企業の撤退戦略も影響する。
以上から正解は選択肢アです。
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